1/28/2017

「ピエタ」 ポプラ文庫

「ピエタ」 ポプラ文庫


18世紀 地中海貿易で利益を得て大きく発展したヴェネツィアだが、その後貿易は地球規模に広がり、それに遅れをとったため経済は傾きかけている。しかし音楽や絵画の巨匠たちがキラ星のように並び文化は爛熟期

爛熟期のヴェネツィアに生まれたヴィヴァルディは、そこのピエタ(注1)と40年近く関係を持ち、多くの協奏曲を発表し、オペラも手がけ、ヨーロッパにその名を轟かせたが、最後はウイーンで病死し貧民のように葬られた。まさにドラマチックな人生だったと思われるのだが、正確にたどるのは難しい。仲間や崇拝者によって活動が記録されたのちの時代の作曲者たちとちがい、資料が少ないらしい。しかしヴィヴァルディの曲は背後にあるヴェネツィアの爛熟した文化とそこから派生したピエタ音楽院という特殊な集団を抜きにしては語ることが出来ないだろう。 この小説「ピエタ」はそんな疑問に答えてくれると思う。

「ピエタ」 大島真澄 ポプラ文庫

綿密な考証を積み上げたのだろう。実在の人物を何人か登場させている。私がわかった範囲では
アンナ・マリーア     : ピエタ出身とされるヴァイオリンニスト
アンナ・ジロー嬢    : ヴィヴァルディと行動を共にすることが多かった歌手
カナレット  : 画家
など
作者の創作と思われる
エミーリア : 親友アンナ・マリーアと一緒にピエタで育てられた。現在は書記を任されている。 彼女の口からこの物語が語られる。
ヴェロニカ : 貴族の娘、以前ピエタに通いヴィヴァルディの指導をアンナ・マリーアやエミーリアと一緒に受けたことがある。
クラウディア : コルティジャーナ (高級娼婦)
ジーナ  : ピエタ出身の薬屋

Vivaldi L'estro Armonico ル エストロ アルモニコ(調和の霊感)
12曲の協奏曲集、ヴィヴァルディはこの曲集を全ヨーロッパに向けて出版する事により、一躍注目を集める事になる。協奏曲の基礎を確立したと言われるこれらの曲はピエタの「合奏の娘たち」と呼ばれた合奏団での経験の蓄積があったからこそで、その経過が小説開始直後に熱く語られる。途中「合奏長」アンナ・マリーアの指導による練習もL'estro Armonico   でありエピローグで演奏されるのも、この曲集なのだ。ヴィヴァルディといえば「四季」を持ち出したくなるが、敢えてL'estro Armonico だけに焦点を絞っているのは作者の考証の自信からだろう。

物語は一枚の楽譜をめぐって展開してゆく。それによってピエタやヴェネツィアのようすが浮かび上がってくる。
「貴族の娘」や「高級娼婦」を登場させ爛熟したヴェネツィアの裏の世界も見せてくれる。

エミーリアとアンナ・マリーアとの関係、ピエタとヴィヴァルディの、
ピエタとヴェネツィアの関係が徐々に明らかになっていく。

ヨーロッパでは戦乱が始まり、イギリスでは産業革命ののろしが上がり、時代は大きく動き出した。 

L'estro Armonico  を再度通して聴いてみる。どの曲も個性的かつ野心的でさえある。
熱心さと好奇心に富んだ若い生徒たちが主体となっているピエタの合奏団との共同作業がなければ、生まれてこなかった作品群かもしれない。
派手好みで飽きっぽいヴェネツィア市民、その心をとらえるべく画期的なニューサウンドを生み出しヴェネツィア市民の喝采を浴び、ヨーロッパでも注目を集めたのだ。

某評論家が「ヴィヴァルディの音楽の品のなさが耐えられない・・・イタリアのテノール歌手のように歌いさわぐだけで・・云々」などとかなり「的外れ」な発言をしているが、むしろ「ピエタ」の作者大島さんの方がL'estro Armonico  だけにピシリと照準を合わせている事を頼もしく感ずる。
ヴィヴァルディの伝記にはない部分も十分に説得力がある。お勧めします。

注1 ピエタ 「公立の捨て子養育院、音楽院も併設されていた」当時のヴェネツィアには同様の施設がピエタも含めて4つあった。 





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